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水の話/札幌・俊読2019のために1

「万物の起源は水である」

紀元前5世紀頃の、ターレスのこの言葉に出会ったのは確か、高校1年の倫理の授業で、ギリシア哲学の流れを概観する、みたいな時間の時でした。その時の担任の川村先生は当時目を悪くしていらして、常に眼帯をはめて授業をされていたのですが、当時は何を習ったということよりも、病気然としたそれが気になって、ほとんどすぐ忘れていたのでした。

その後大学から演劇を始めて最初の夏のサークル旅行、山梨県。富士急ハイランドにどんなものがあるとか盛り上がっている周りとは対照的に、ひたすら気が進まなかったんですよね。受験疲れというか、今より何百倍も繊細さの塊だった私は、毎日を生ける屍みたいにして過ごす、そういう状態だったので。今が信じられないほどに。

でもそこで出会ったのです。今でも強烈な印象を残している、ある画に。それは美術館や博物館や他のアトラクションによってではなく、湖面の水でした。

風が吹いたりやんだり、夕方でしたから光が差したり翳ったり、それらに絡みつくようになのかあおられるようになのか、一瞬間たりとも同じ形でとどめない、0コンマ何秒よりも細かい、それこそ刹那を重ねるように、三角から四角、楕円から二等辺、ひし形に平行四辺と変わってゆく水面を見るのが面白くて楽しくてしょうがなくて、それ以外の旅行の記憶が、今ではもう残っていないくらいなのです。ターレスの言葉を思い出したのはそれが初めてでした。

その後、劇団を始めてからも折に触れてその瞬間はあったのですが、今回「俊読」に参加するにあたり、久しぶりにそのことを思い出したのです。単純に、谷川俊太郎という、ここ50年の日本でもっとも重要な詩人であるその人の詩を読むことでステージに立つ、そのことは私自身が、どうして何かを表現したい、何かを読みたいと思うのかをまっすぐ問われることでもありました。単純に発声発音、うまく読もうとすることなどまるで問題にならない、これまでにない何かが必要だと。

今回、本番より1日早く道内に入ったのも、どこかでそれを確認しようと思っていたからでした。そのことはFacebookに取り急ぎまとめました。一緒に読んでいただければ有り難いです。

さあ、会場に向かいます。俊読2019、自分の出番は午後6時前の予定です。お目にかかれる方、どうぞよろしくお願いいたします。