2019年2月

初めてする話/「俊読2019」

この話は、人前では初めてする話です。そう言ってこれまでたくさんの人に嘘をついてきたわたしですから、きっと今度も信用してもらえないかもしれません。だけどできたら聞いてほしい。本当に、このしらせを聞いたときに蘇ってきた風景があるのです。そしてそれは、ずいぶん長い間、忘れていた風景でもあったことを。

だだっ広い学校の中にそびえる、理系の学部の物々しい建物に遠慮するように、押し込まれたようにそれはありました。すでに白みがかったひび割れの走る階段を登りきると、夕方には判読が不可能になる木製の看板がかかっていて、1階には事務所、床屋、印刷室、学園祭の実行委員会が並び、2階には大小さまざまな集会室がひしめき合っていました。そのほとんどの部屋を使って、今日はサンシュー、明日はヨンシュー、そうして20代の前半を芝居の稽古をして過ごしました。それぞれ、第3集会室、第4集会室の呼び名でした。

そのうち、稽古がなくてもその建物に足を運ぶようになりました。暇つぶしでした。同じことを考えていた者は自分以外にもいました。そして決まって落ち着くのは、1階の部屋を抜けたところにある空間でした。どこかのお古でもらってきたようなソファとテーブルが雑に並べられて、それぞれの場所に学生や、学生だった人や、たぶん学生だろうけどとてもじゃないが人相風体がそう見えない人までが混じり合っていた不思議な場所でした。そもそも私自身が「学生じゃない人」でした。その大学の学生でもないくせに入り浸っていたのです。

「俺は吟遊詩人になりたかったんだ」

いつものソファーでそんなことを口にしたのだから、聞いていた方はさぞびっくりしたと思います。笑うしかなかったと思います。でもその瞬間、自分の中で間違いなく何かが弾けたのでした。そのことだけは25年を経とうとしている今でも、はっきり覚えています。その「瞬間」を私の目の前で聞いていたのは、のちに一緒に劇団を旗揚げすることになる望月武志君と、その先輩の河合洋造さんでした。6月の平日のお昼前だったと思います。そんな余計なことまではっきりと覚えているくせに、その弾けた「何か」は今もって分からないままです。

昨年札幌でお届けした「朗読会拓使」がきっかけになり、「俊読2019」へお誘いをいただきました。ふたたび、札幌に伺います。2年連続で札幌で朗読ができる。この上ない喜びを感じています。 だけど、これを運命だとか奇蹟だとか言う気にはどうもなれないのです。ただあの時、その場所、名古屋大学北部学生会館第8集会室、通称「ダンワ」で出会ったあの火花と似たようなもの探す、ひさしぶりの時間を生きたいと思います。

主催の桑原滝弥さん、古川奈央さん、そしてもちろん谷川俊太郎さん。
どうぞよろしくお願いいたします!そしてこれまで札幌で知り合いになってくれた皆様、是非5月26日は会場でお目にかかりましょう!

「俊読2019」

  • 日 時 2019年5月26日(日)17時〜20時
  • 会 場 Cafe & Bar Fiesta(札幌市中央区南3条西1丁目3-3)
  • https://fiesta.owst.jp/

「朗読濃尾(ノーヴィ)」2019の予定

先日、SNSの方では報告をさせていただいたのですが、「朗読濃尾(ノーヴィ)」の会場としてもおなじみの「いしぐれ珈琲」は今月(2019年2月)中旬を目途に、これまでの高島屋南地区を離れ、同じ柳ヶ瀬商店街の中の「日の出町」の一角に移転いたします。その引っ越し作業を手伝ってきまして、写真は焙煎機を運ぶリフトの後ろからの1枚です。

その中で再開初回を2月23日(土)午後6時半からは開催しますが、それ以降の2019年の予定も先にお知らせしておきます。

その110 2月23日(土曜日)
その111 3月30日(土曜日)
その112 4月27日(土曜日)
その113 5月18日(土曜日)※★
その114 6月29日(土曜日)
その115 7月27日(土曜日)
その116 8月31日(土曜日)
その117 9月28日(土曜日)
その118 10月26日(土曜日)
その119 11月23日(土曜日)
その120 12月21日(土曜日)※

基本的には「毎月最終土曜日」で進めていきたいと考えています。ただし※印のところについては変則な日程となりますので、何卒お間違えのないようお願いいたします。また、変更がある場合は当ブログとSNS(Twitter @afrowagen )でお知らせするつもりです。

……じゃあ、あと★のところは、と申しますと、これは近日中にお知らせいたします。まさかそんな展開になるとは思わなかった、というお話です。ご期待ください!

「YOSEコン」終了、そして…

毎年、初めての読みは柳ヶ瀬で迎えていましたが、移転とリ・スタートが重なってことで、名古屋・千種「5/Rホール&ギャラリー」での「YOSEコンサート」が今年の読み始めとなりました。ご来場をいただきました皆様、誠にありがとうございました。

このドラマリーディング「国境の詩」の台本を受け取った時、まず考えたのは、私の中にある、どんな風景と結びつけるか、でした。借り物ではない、身につけているものからでないとうまく行かないだろうとも思いました。昨年までと違っていたのは、そういう「風景を描く」ということへの意識が、よりはっきりしてきたという実感があることでした。読みながら、45分間の旅をしている、そんな心境でした。

というのも、同じようなことを、聴いていただいたお客様のひとりからメールでいただいたのです。「あたかも私も列車のボックス席の向かいに座ってその場にいる感覚でした。」と。少しは伝えることはできたのかもなあ、と感じています。 でも、まだまだ旅が必要です。書かれた言葉を染め抜くための、確固たる音と声を目指さねば、とも思います。

今回共演の堀田菜穂子さん、作・演出のにへいたかひろさん、音響の鶴田真弓さん、そして5/R代表の伊藤さんはじめスタッフの皆様に大変お世話になりました。ありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします!